古川のひとりごと

雪をどけて、車を起こす朝

古川太郎 /  / 車のこと

ひと晩のうちに、車はすっぽり雪の布団をかぶってしまう。それを起こすところから、北国の朝は始まる。

カーテンを開けて、思わず「ああ」と声が出る朝がある。庭先に置いた車が、丸い白いかたまりになっている。屋根のラインも窓もぼやけて、もとの色がどこかへ行ってしまったみたいだ。出勤前のひと仕事が増えたな、と思いながら、僕は手袋をはめてスコップを握る。

外に出ると、息が白くまっすぐ前に流れていく。雪は見た目より軽かったり、夜のうちに締まって重かったり、その日によって機嫌が違う。屋根からそっと払い、ボンネットをなで下ろし、ワイパーのまわりを起こしてやる。フロントガラスに残った薄氷を、手のひらの熱でしばらく押さえて溶かす。なんだか、眠っているものを起こしているような気分になる。

ひととおりどけ終えると、車はまた車の顔に戻る。エンジンをかけて、ヒーターが温まるまでの数分、僕は白い息のなかでただ待つ。せかせかしていた気持ちが、その待ち時間にすこしほどける。

北国の冬は面倒だ、とよく言われる。たしかにそうなのだけれど、この雪をどける朝の儀式が、僕はそんなに嫌いじゃない。一日のいちばん最初に、自分の手でひとつ片づけたという、ささやかな達成感みたいなものがある。湯気の立つ車に乗り込んで、僕の一日はようやく動き出す。


ほかのひとりごと

コラム一覧へ戻る /このサイトについて(運営者情報)