古川のひとりごと

指のあとを、ひとつずつ

古川太郎 /  / 車のこと

十二月の終わり、僕は車の中をていねいに拭く時間が、なんだか好きだ。急ぐわけでもなく、ただ一年ぶんの埃と向き合う。

まず外より先に、なぜか内側から始めたくなる。ハンドルの、いつも握る場所だけが少しつるりとしている。一年、僕の手がそこにいた証拠だ。ダッシュボードの溝に綿棒を差し込むと、灰色のやわらかい埃がついてくる。誰に見せるでもないのに、こういう隅こそ丁寧にやりたくなるから不思議だ。

ドアの内張りには、子どもが乗ったときの小さな指のあとが残っていた。窓ガラスの内側にもいくつか。拭けばすぐ消えるのに、一瞬だけ手を止めてしまう。消すというより、ありがとうと声をかけてから消す、みたいな気持ちになる。

シートの隙間からは、覚えのないレシートや、固くなった飴のひと粒が出てきた。一年、この車があちこちへ連れて行ってくれた道のりが、こうして小さなかけらになって残っている。集めて捨てると、車の中が少しだけ広くなった気がした。

冷たい水でフロアマットを洗い、立てかけて乾かす。湯気みたいな白い息を吐きながら、外気はきんと澄んでいて、軒先で何かがコツンと鳴る。きれいになった運転席に座り直すと、来年もまた、ここからどこかへ出かけられる気がしてくる。新しい年に、まっさらな車で会いにいく。それだけのことが、僕にはずいぶんうれしい。


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