雪が降る前に、タイヤを替える。この辺りでは当たり前のその支度を、去年、僕は自分の手でやってみた。
毎年十一月の声を聞くと、僕の頭の片隅で小さな音が鳴り始める。そろそろ、あれをやらなきゃな、という音だ。雪が降る前にタイヤを替える。この辺りでは当たり前の冬支度で、僕も去年、思い切って自分でやってみた。
ジャッキを車体の下にあてがって、ぐっと上げていく。じわじわ車が浮いていくあの感覚は、なんだか不思議だった。普段はただ乗っているだけの鉄の塊が、急に重たい生き物みたいに思えてくる。ナットをゆるめるのに体重をかけて、外したタイヤを転がして、新しいのをはめて。たかが四本、されど四本で、終わる頃には背中にじんわり汗をかいていた。
厄介なのは、終わってからだ。ちゃんと締めたよな、と何度も自分に問いかける。家に入ってお茶をすすっていても、ふと、一本ゆるかったんじゃないかと不安が顔を出す。結局もう一度外に出て、車庫の前でレンチを握り直す。たぶん大丈夫だと分かっていても、確かめずにはいられない。
それでも、翌朝そのまま走り出せた時のちょっとした誇らしさは、なかなかいいものだった。自分の手でやったことが、ちゃんと地面を転がっている。お店に任せれば早いし確実だけれど、たまには遠回りして、手のひらに重さを覚えさせるのも悪くない。
今年もまた、あの小さな音が鳴り出す頃だ。寒くなる前に、もう一度あの汗をかこうと思っている。