古川のひとりごと

土の中で、なにかが待っている

古川太郎 /  / 雑記

今年は思いつきで、軒下の小さな一画を耕してみました。畳一枚ぶんもない、ほんの猫の額です。

きっかけは特になくて、ただ春先に土の匂いがして、なんだか手を入れてみたくなったんです。鍬なんて立派なものはないので、古いスコップで地面をほぐして、近所で買ってきた種を適当にまきました。説明書きには「深さ一センチ」とあるけれど、僕の指は雑だから、たぶん二センチくらいになったりしている。それでもいいやと思いながら、上からそっと土をかぶせました。

毎朝、起き抜けにじょうろを持って外へ出るのが、いつのまにか習慣になりました。水をやると土の色がすっと濃くなって、なんだか機嫌がよくなったみたいに見える。芽が出るまでの何日かは、正直なところ半信半疑でした。本当にこんな小さな種から、なにか出てくるのかな、と。

それで、ある朝です。土を割って、緑のちいさな点がふたつ、こちらを向いていました。声を出すほどではないけれど、僕はその場でしばらくしゃがんだまま動けませんでした。なにをしたわけでもないのに、ちゃんと約束を守ってくれた、みたいな気持ちになって。

草花は、急かしても早くは咲きません。今日はまだ、と思う日が続いて、そのうちにふと花がほどけている。季節はそういうふうに、こちらの都合を聞かずに静かに移っていくものらしいです。雨の日は水やりを休めるのも、なんだか得した気分でいい。

立派な庭でも、めずらしい花でもありません。それでも、土の中でなにかが待っていて、こちらが少しだけ手をかけると応えてくれる。そのやりとりが、僕にはちょうどいいのです。


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