古川のひとりごと

筆が止まる、白いはがきの前で

古川太郎 /  / 雑記

十二月も残りわずかになると、毎年きまって、はがきと向き合う静かな時間がやってくる。書くのは得意じゃないのに、なぜか手で書きたくなる時間だ。

十二月の終わり、机の上に白いはがきの束を出すと、それだけで部屋の空気が少し改まる気がします。インクの匂い、ペン先がはがきをこする小さな音。一枚目はわりとすらすら書けるのに、二枚目、三枚目あたりで決まって筆が止まる。あて名は書けても、その下に添える一言が出てこないのです。

「お元気ですか」では味気ないし、かといって気の利いたことも浮かばない。しばらく窓の外をぼんやり眺めて、湯飲みのお茶が冷めていくのを忘れて、それでまた一文字目をためらう。年に一度しか思い出さないような人の顔が、はがきの白さの中からふっと立ち上がってくる。あの人は今、どんな冬を過ごしているんだろう、と。

僕は字がうまくありません。曲がるし、行も右下がりになる。それでも手で書くのは、たぶん下手なまま届けたいからだと思います。印刷の整った賀状もきれいでいいのだけれど、ところどころ墨がかすれていたり、最後の方で文字が小さくなっていたりする一枚に、なぜかいちばん心が動く。書いた人の手の動きが、そこに残っている気がして。

結局、ありふれた一言に落ち着くことが多い。「また会えたらうれしいです」。たったそれだけ書くのに、ずいぶん時間がかかったりする。でも、もらう側になってみると、その不器用な一行がいちばん効くのを知っています。だから僕は今年もまた、止まる筆を持て余しながら、白いはがきの前で長いことぼんやりしているのでしょう。


ほかのひとりごと

コラム一覧へ戻る /このサイトについて(運営者情報)