古川のひとりごと

そろそろ、と思いながら

古川太郎 /  / 車のこと

長く乗るか、乗り換えるか。車を持っていると、だれもが一度はぶつかる小さな悩みです。

僕の車も、気づけばずいぶん長い付き合いになりました。走行距離はそれなりにいって、ドアの取っ手は手の脂で少し色が変わって、シートには僕の体の形がうっすら残っています。エンジンをかければちゃんと動いてくれるのだけど、整備の人に「そろそろ、ですかね」と言われると、なんだか胸の奥がきゅっとします。

正直に言えば、新しい車に乗り換えたい気持ちもあります。最近の車は燃費もいいし、安全装備も賢くて、雪の朝でもすっと走り出してくれるんでしょう。北の冬を何度も越えてきた身としては、ありがたい話です。頭ではわかっている。わかっているんです。

それでも、いざ手放すとなると足が止まる。この車で行った海も、田んぼ道の夕暮れも、なんでもない買い物の帰り道も、全部この助手席や後部座席が覚えている気がして。物に魂はないと言うけれど、思い出のほうがちゃんと宿ってしまうんですよね。

長く乗るのも、乗り換えるのも、たぶんどちらも正解なんだと思います。大事に直しながら付き合うのも一つの愛情だし、気持ちよく送り出して次へ進むのも、また一つの愛情。どっちが偉いとか、そういう話ではないのでしょう。

だから僕は、もう少しだけこの車と過ごします。決めかねているうちが、いちばん幸せな時間なのかもしれません。あなたの車は、いまどんな顔をしていますか。


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