古川のひとりごと

満タンのスイッチ

古川太郎 /  / 車のこと

給油のとき、僕にはちょっとした決まりごとがあります。たいしたことじゃないんですけど。

僕は基本、満タンにする派です。残りが半分くらいになると、なんだかそわそわしてきて、つい寄り道してでも入れたくなる。少しだけ、という日もあるけれど、財布の中身としらない街までの距離をなんとなく見比べて、結局は満タン。メーターの針がゆっくり右へ満ちていくのを見ていると、それだけで気持ちがちょっと落ち着くんです。

給油のあいだ、僕はだいたいフロントガラスを拭きます。備えつけの水と、くしゃっとした紙。虫の跡や、ゆうべの雨のうろこを、ひとつずつ消していく。べつに汚れていなくても拭く日がある。なんでもない作業なんですが、これをやらないとどうも一日が始まらない気がして。たぶん儀式みたいなものなんでしょうね。

満タンになって、カチッとノズルが止まる音。あれが僕はわりと好きです。今日もちゃんと入ったな、という小さな満足。メーターのいちばん上まで満ちた針を見て、よし、と心の中でつぶやく。それだけのことなのに、なぜか少し誇らしい。

宮城の北のほうは、給油所と給油所のあいだがけっこう離れていたりします。だから満タンにしておくと、なんとなく安心して遠くまで行ける。行くあてがなくても、いつでも行ける、という気分。たぶん僕は、その余白みたいなものが好きなんだと思います。

皆さんにも、なにかありますか。給油のときの、自分だけの小さな決まりごと。誰に話すでもない、ほんの数分の習慣。そういうものが、案外いちばん長くつづいていく気がするんです。


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