古川のひとりごと

車のにおいの話

古川太郎 /  / 車のこと

新しい車の、あの独特なにおい。覚えてますか。僕はあれを嗅ぐと、なんだか少しだけ背筋が伸びる気がするんです。

新しい車には、新しい車のにおいがあります。シートやプラスチックの、まだ誰の生活も染み込んでいない、まっさらなにおい。あれはあれで悪くないのだけれど、僕はどちらかというと、少し時間が経った車のにおいのほうが落ち着きます。

前に長く乗っていた車は、開けるたびにいろんなにおいがしました。夏の午後に車庫で温まったシートのにおい。雨の日に持ち込んだ傘の、ちょっと湿ったにおい。コンビニで買ったホットコーヒーのにおいも、たぶん少しは残っていたと思います。

におい、というのは不思議なもので、写真よりも、ずっと鮮やかに記憶を連れてきます。誰かを助手席に乗せた日のことも、ひとりで遠くまで走った冬の朝のことも、ふとした拍子に、においだけがその時間をまるごと思い出させてくれる。

宮城の田んぼ道を窓を開けて走ると、土と草と、季節のにおいが車の中に少しずつ溜まっていきます。それが自分の車のにおいになっていくのが、僕はけっこう好きでした。

立派な芳香剤を置くより、その車と過ごした時間が勝手に作ってくれるにおいのほうが、僕にはしっくりきます。あなたの車は、いま、どんなにおいがしますか。


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