古川のひとりごと

名前をつけると、ちょっと友達になる

古川太郎 /  / 車のこと

いつからか、僕は車に名前をつけてしまう癖がある。理由はうまく言えないのだけれど。

今の相棒は、僕の中では「クマ」と呼ばれている。べつに見た目がクマっぽいわけでもないし、色も普通の灰色だ。最初にエンジンをかけたとき、低いところで「ぐるる」と唸るような音がして、それがなんだか冬眠から起きた大きな動物みたいに思えた。それきり、頭の中で勝手にクマになった。

不思議なもので、名前をつけると性格まで生えてくる。寒い朝、なかなか暖機が進まないと「今日は機嫌が悪いな」と思うし、坂道をぐいと登りきると「よくやった」と心の中で肩を叩いている。本当はただの機械の都合なのに、僕はいつのまにか、向こうにも気分があると信じはじめている。

駐車場で離れるとき、ドアをぽんと一回叩いてしまうのも癖だ。誰かに見られたら少し恥ずかしい。でも「またな」のつもりで手が動く。返事なんて返ってこないのに、返ってこないからこそ、こちらが一方的にやさしくなれる気がする。

名前をつけるというのは、たぶん、ただの鉄の塊を「うちの子」にしてしまう小さな魔法なのだろう。効力の説明はできない。ただ、呼びかける相手がいると、ひとりの運転がほんの少しだけ、ふたりの時間になる。それだけで、僕には十分すぎるくらいだ。


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