古川のひとりごと

夜のラジオと、ひとり歌

古川太郎 /  / 車のこと

運転中の車の中って、なんだか世界でいちばん気楽な場所だと思いませんか。誰も見ていないし、誰も聞いていない。

僕は運転しながら、よく歌います。信号待ちでふと我に返って、口を閉じることもありますが、たいていは気づかないふりをして続けています。音程はあやしいし、歌詞も半分くらいうろ覚え。それでもハンドルを握っていると、なぜか声を出したくなるのです。車の中はひとりカラオケにちょうどいい広さで、誰にも遠慮がいりません。

好きな曲は季節でゆるやかに変わります。春先はなんとなく軽やかな曲を、夏は窓を開けて風と一緒に流れる曲を。秋が深まってくると、しっとりした声の歌が似合う気がして、自然とそういう曲ばかり選んでしまいます。曲のほうが季節を連れてくるのか、季節が曲を呼ぶのか、僕にはよくわかりません。

夜になると、僕はラジオをつけます。宮城県北の道は、夜はずいぶん静かで、街灯もまばらです。そんな中で聞こえてくるパーソナリティの声は、不思議とあたたかい。知らない人のとりとめのない話や、どこかの誰かのおたよりを聞いていると、ひとりで走っているのに、ひとりじゃないような気持ちになります。

曲がかかれば一緒に口ずさみ、トークが始まれば黙って耳を傾ける。それだけのことなのに、家に着くころには一日の気持ちがちょうどよくほどけています。立派なオーディオじゃなくていい。スピーカーから流れてくる音と、自分の小さな歌声があれば、夜の運転は僕にとって、けっこう上等なひとときなのです。


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