うちの前には、いつも何台か車が並んでいます。誰のものでもないようで、ちゃんとそれぞれの持ち主がいる。田舎の、ごく当たり前の風景です。
僕の住んでいるあたりでは、車がないと一日が始まりません。最寄り駅まで歩けば汗だくになるし、バスはのんびり、時間より気まぐれです。だから家族みんな、一人一台。父の軽トラ、母の小さなワゴン、僕の少しくたびれた一台。朝になると、それぞれが別々の方向へ散っていきます。
面白いもので、車には持ち主の癖がそのまま出ます。母の車はいつも助手席にスーパーの袋が一枚たたんで置いてあるし、父のは灰皿のあたりに飴の包みがちらほら。僕の車は、足元にいつのものか分からない砂が薄く積もっています。誰も気にしないけれど、見ればすぐ分かる。それぞれの暮らしが、座席にしみ込んでいるみたいです。
夕方、車庫の前に一台、また一台と帰ってくる音がします。エンジンを切る音、ドアの閉まる音。あれを聞くと、ああ今日もみんな無事に帰ってきたな、と思うのです。立派な車ではないけれど、それぞれが誰かの足になって、一日ぶんの距離を運んでくれた。それだけで、なんだか頼もしい。
都会の人からすれば、一家に何台もなんて不思議に映るのかもしれません。でも、ここではこれが普通の暮らし。畑の用も、買い物も、誰かの送り迎えも、ぜんぶ車のおかげで回っています。
今日も三台、家の前にのほほんと並んでいます。明日の朝も、たぶん同じように散っていく。なんでもない景色だけれど、僕はこの並んだ車たちを眺める時間が、わりと好きなのです。