古川のひとりごと

初めての一台のこと

古川太郎 /  / 車のこと

初めて自分のお金で買った中古車のこと、ときどき思い出します。立派な車じゃなかったけれど、不思議とよく覚えているんです。

僕が初めて手に入れたのは、もう何年も走ってきた小さな中古車でした。ドアを閉めると少しだけ間延びした音がして、エアコンはその日の気分で効いたり効かなかったり。お世辞にも調子がいいとは言えなかったけれど、なぜか憎めない一台でした。

それでも、自分の名義になった車検証を初めて手にしたときのことは、今でもはっきり覚えています。たいした紙きれのはずなのに、なんだか妙に誇らしくて、しばらく眺めていました。これで僕は、どこへでも行っていいんだ。そんな気持ちが胸の奥でふくらんでいったのを覚えています。

休みの日は、あてもなく県北を流しました。田んぼが地平まで続いて、遠くに山の稜線がうっすら見える、あの何気ない景色。目的地なんて決めずに、ただ風を入れて、好きな曲を小さくかけて。エンジン音と一緒に、季節がゆっくり流れていきました。

ポンコツでも、いや、ポンコツだったからこそ愛おしかったのかもしれません。手をかけた分だけ、こちらを向いてくれる気がして。完璧じゃないものと長く付き合うのは、案外、悪くないものです。

新しくてピカピカの車もいいけれど、自分で選んで、少しずつ手なずけていく時間も、僕はけっこう好きでした。あの一台のことを、今でもときどき思い出すのです。


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