用がないのに、ふらりと古本屋に入ってしまうことがある。気がつくと、外はもう暗くなっている。
扉を押すと、紙とほこりの混じったあの匂いが鼻に届く。新品の本のつるりとした匂いとは違って、もっと枯れた、落ち葉を踏んだときみたいな匂いだ。僕はこれを嗅ぐと、なぜか肩の力が抜ける。今日は何も買わなくてもいい、ただ背表紙を眺めにきただけ、という気持ちになる。
棚の前に立って、首をかしげながら端から端まで背表紙を読んでいく。これがちょっとした探検みたいで楽しい。料理の本の隣に古い地図帳が紛れていたり、誰も読まなそうな分厚い辞典が堂々と一番上に鎮座していたり。脈絡のなさが、かえって気持ちいい。指で背を一冊ずつなぞっていくと、紙のざらつきや、布張りのすべすべが伝わってくる。
ときどき、前の持ち主の痕跡に出会う。鉛筆で薄く線が引かれていたり、ページの隅に「ここ大事」と小さな字で書き込まれていたり。会ったこともない誰かが、何十年か前にこの本をめくって、どこかで頷いていたんだなと思うと、不思議とあたたかい気持ちになる。
結局その日は、探していたわけでもない一冊を抱えて店を出た。表紙の色がなんとなく好きだった、それだけの理由で。手に持つと、思っていたより少し重い。こういう出会い方も悪くないな、と思いながら、僕は暗くなった道をのんびり歩いて帰った。