出かける前、必ず一袋だけおやつを選ぶ。たったそれだけで、いつもの道がほんの少し遠足になる。
助手席の足元に、小さな袋がひとつ転がっている。出かけるとなると、僕はなぜか律儀に一袋だけおやつを選ぶ。大袋はだめだ。片手でつまめて、口の中でほどけて、指がべたつかないもの。信号待ちのほんの数秒で一個、また数秒で一個。そういう、運転のリズムにそっと馴染むやつがいい。
気をつけているのは、こぼさない工夫。膝の上に袋を立てると坂道で倒れるから、ドリンクホルダーの脇に斜めに差しておく。カーブで袋がかさりと鳴って、僕の体と一緒に右へ左へ傾く。その音が妙に楽しくて、子どもの頃、遠足のリュックの底でお菓子が踊っていた感触を思い出す。中身がなんだったかは忘れたのに、あの揺れだけは覚えている。
誰かを乗せた日は、袋を真ん中に置く。「ひとつどうぞ」と言うのも照れくさいから、ただ口を開けて運転席のほうへ向けておく。すると相手も黙って手を伸ばす。会話が途切れても、袋が間にあるだけで気まずくならない。半分こにすると、不思議と同じものが少しだけおいしくなる気がするのだ。
目的地に着く頃には、袋はだいたい軽くなっている。最後のひとつを残しておいて、エンジンを切ってから食べるのが僕の癖だ。静かになった車の中で、つまむ音だけが小さく響く。たいした品でもないのに、ちゃんとごほうびの顔をしている。次はどれにしようか。それを考えるだけで、まだ出てもいない明日の道が、もう少し楽しみになる。