早起きした朝、ふらりと立ち寄った朝市の話を少しだけ。にぎわいの中を歩くのが、僕はけっこう好きなのだ。
朝市は、目が覚めきる前から始まっている。並んだテントの間を歩くと、足元の砂利がじゃりっと鳴って、その音で僕はやっと自分が起きたことに気づく。あちこちから「持ってけ持ってけ」と威勢のいい声が飛んで、寝ぼけた頭がだんだんほどけていく。
湯気がいい。蒸かした芋の白い湯気、汁物の鍋から立ちのぼる湯気、それが朝のひんやりした空気にぶつかって、ふわっと消える。手をかざすと、てのひらがほんのり湿る。隣の人と肩がぶつかっても、誰も嫌な顔をしない。みんな少しだけ寒くて、少しだけ嬉しそうだ。
困るのは、つい買いすぎてしまうこと。漬物を一袋のつもりが、勧められるまま二袋になり、横で湯気を立てている饅頭にも手が伸びる。袋がだんだん重くなって、両手がふさがる。それでも、なんだか得をした気分になってしまうから不思議だ。
帰り道、抱えた荷物の温かさが脇腹に伝わってくる。たぶん饅頭の余熱だ。にぎわいはもう背中の後ろに遠ざかって、僕の手の中にだけ、朝市のかけらが残っている。買いすぎたな、と思いながら、来週もまた行くんだろうな、とも思う。