国道47号を鳴子温泉方面へ走らせると、湯けむりの匂いにまじって、どこか香ばしい餅の気配が漂う一角がある。その一角に、鳴子御殿湯エリアの街並みに溶け込むように立っているのが芭蕉庵という和菓子店だ。所在地は宮城県大崎市鳴子温泉字馬場66-1で、鳴子御殿湯駅から徒歩十数分、車ならわずか数分の距離にある。派手な看板を出しているわけでもなく、通りすがりでは見落としてしまいそうな控えめな構えだが、温泉街の常連や湯治客からは着実に名前を挙げられる、そんな土地に根を張った菓子屋である。
看板商品の栗だんごは、鳴子を代表する郷土菓子として知られる存在で、丸ごとの栗を柔らかな餅で包み、みたらしのタレを艶やかにまとわせた一品として案内されている。ひと口に含むと、香ばしいタレの甘辛さと栗のほくほくとした食感が同時にほどけ、鳴子の秋を凝縮したような余韻が残る。焼きたてを求めて午前中から立ち寄る客も少なくないと聞こえてくる。価格は手ごろで、湯めぐりの合間の小腹満たしに一本、家族への土産に一箱と、買い方に幅を持たせられる設定だ。
ショーケースを覗くと、栗だんごの脇にはくるみゆべしや胡麻ゆべしといった伝統的な東北の菓子が並び、その向こうに大福やスイートポテト系の創作菓子「いもねえちゃん」、季節のケーキや焼き菓子までもが顔をそろえている。和菓子と洋菓子の垣根が低く、家族連れが集まったときに一人ひとりの好みに応えやすい構成になっているのがありがたい。3世代の家族が手仕事で作り続けているとうたわれる菓子群は、機械大量生産の均質さとは違う、微妙な個体差のある表情を持っている。
店内はこぢんまりとしていて、和服の似合いそうな落ち着いた色調でまとめられている。接客は決して大声を張り上げるタイプではなく、初めての客には栗だんごの日持ちや、ゆべしを冷蔵で戻すコツなどを短く添えてくれる、そんな控えめな親切がある。土曜日曜の日中はレジの前に人が並ぶこともあるが、順番待ちで気持ちがささくれ立つほどのことにはならず、待つ間に鳴子の観光案内チラシに目を通す時間が生まれる程度の混み方だ。
立地は鳴子観光の動線上に自然に組み込まれている。鳴子峡や鳴子ダム、日本こけし館、潟沼といった名所へ向かう車列の途中に位置し、駐車場も敷地内に用意されている。古川方面から日帰りで訪れる家族連れが、峡谷散策の前の腹ごしらえに寄る姿もあれば、宿にチェックインする前の手土産購入で立ち寄る姿もあり、鳴子温泉のリズムに沿った利用のされ方をしている。冬季は路面の凍結が厳しく、スタッドレスタイヤと余裕のある運転が前提となる。
常連の楽しみは、季節限定の菓子と、その日焼き上がった栗だんごを狙って買うことだと聞く。人気商品ゆえに、時間帯によっては栗だんごが売り切れることもあると案内されており、確実に手にしたい場合は午前中の早い時間や、事前の電話問い合わせが手堅い。秋の紅葉シーズン、年末年始、そして湯治客の多い冬場は普段より賑わいが増す時期で、逆に平日の午後は落ち着いた買い物ができる時間帯という印象を受ける。
地元の常連は、日常のおやつとして小ぶりのゆべしや黒糖饅頭を数個ずつ買っていくのだそうだ。派手な贈答用というよりは、家族が三時のお茶に一つずつつまむ、そんな地に足のついた使い方が芭蕉庵の日常を支えている。私も鳴子方面へ足を運ぶたびに、栗だんごを一本と、車内で食べやすい小さな焼き菓子を選んで会計を済ませる、ちょっとした儀式のような立ち寄り方を続けている。
訪問時の注意点として、営業時間は9時から18時ごろまでとされ、定休日は不定休と案内されている。予定を確定させたい場合は、電話(0229-82-4737)か公式サイト(oosaki-dream.net/basyo_an/)で最新の状況を確認しておくと安心だ。日持ちの短い生菓子と、比較的日持ちする焼き菓子・ゆべしを組み合わせて買うと、遠方への土産にも近所へのおすそ分けにも使いまわしが利く。冷蔵・冷凍の可否は店で一声かけて確かめておくのが確実である。
周辺には鳴子御殿湯の源泉群、鳴子峡、鳴子ダム、日本こけし館、潟沼といった見どころが車圏内に固まっており、芭蕉庵で菓子を仕入れてから景勝地でひと休みするというプランが自然に組める。鳴子御殿湯の地名は、江戸時代に伊達藩の御殿湯が置かれた歴史に由来するとも語られており、この街道筋には湯の街の記憶がまだ生きている。菓子屋が三世代にわたって手仕事を続けている姿は、その土地の連続性の一部として重なって見える。
鳴子温泉郷は泉質の多様さで名を知られる一帯で、宿ごとに湯の色や肌触りが違うと言われる。そうした湯を巡ってきた身体には、砂糖の甘さがきつすぎない郷土菓子がよく馴染む。芭蕉庵の菓子は洋菓子と並べても素朴な線を残しており、湯上がりの疲れた身体に染みる甘さの調整が心得られているように感じる。派手さで押すのではなく、旅の余白を静かに埋めるタイプの菓子屋である。
利用シーンとしては、宿へ向かう前の手土産購入、日帰り温泉と組み合わせた道中のおやつ、鳴子峡散策後の休憩と補給、遠方の親戚への発送土産の下見など、幅広く思い浮かぶ。友人と一緒に訪れて、レジ横で「これも一つ」「あれも二つ」と少しずつ試すのも楽しい買い方で、初見の菓子を数種ずつ揃えれば、家族が集まる夜のお茶請けが一気に華やぐ。大崎市鳴子温泉の食文化を味覚から体験する入口としても機能する店だ。
鳴子を訪ねる知人にはいつも寄り道候補として名前を挙げているのだが、共通して返ってくる感想は「派手ではないけれど、確かに旨かった」というものだ。芭蕉庵は流行の菓子で勝負する店ではなく、栗だんごとゆべしという鳴子の芯を、日々の手仕事で守り続けている店だという印象が強い。派手ではないが芯がある、というのは、大崎市鳴子温泉の街そのものの気配ともよく響き合っていると感じる。
締めくくりとして、この店の位置づけを一言で言えば、鳴子温泉の入口と出口の両方に添える「土地の甘味」といったところだろうか。湯に浸かって身体をほどく前の一本、宿を発って帰路に就く前の一箱。旅の始まりと終わりに、同じ菓子屋の同じ味が寄り添うことは、その旅を一つの物語としてまとめてくれる。次に鳴子へ足を運ぶ予定があるなら、大崎市鳴子温泉字馬場のこの一軒を、動線のどこかに組み込んでみてほしい。
店舗情報
- 住所
- 宮城県大崎市鳴子温泉字馬場66-1 地図で見る
- 電話
- 0229-82-4737
- 営業時間
- 9:00〜18:00とされる
- 定休日
- 不定休とされる
- 駐車場
- あり
- 公式サイト
- oosaki-dream.net で見る
※営業時間・定休日・メニューなどは変わることがあります。最新情報とご予約は各店の公式のご案内でご確認ください。 記載の誤り・修正・削除のご依頼は 運営者情報 からどうぞ。
