元祖うなぎ湯の宿 ゆさや旅館は、大崎市鳴子温泉湯元84、鳴子温泉街の中心にひっそりと佇む純和風の老舗温泉旅館です。JR鳴子温泉駅から徒歩数分、下駄でそぞろ歩きができる距離に建ち、暖簾をくぐると木造の階段や板張りの廊下、抑えた灯りが迎えてくれます。伊達家より湯守を命じられて以来380年以上の歴史を持つと伝えられ、木造2階建ての建物は昭和初期の建築で、国の登録有形文化財に指定されています。派手な演出はないものの、温泉街特有の湯の香と時代を重ねた木の匂いが混ざり合い、館そのものが鳴子の記憶を刻んだ一つの装置のように感じられます。宿泊のみの営業で、日帰り客の喧騒とは切り離された落ち着きが保たれているのも、この宿の空気を作る大切な要素だと感じます。
宿の代名詞は、屋号の由来にもなっている「うなぎ湯」。含硫黄−ナトリウム−硫酸塩・塩化物泉で、地下から高温で湧出する芒硝泉を天然かけ流しで楽しめる贅沢な湯です。ぬるぬる・つるつるとした滑らかな肌触りが特徴で、その感触が「うなぎ」に例えられて名付けられたと伝わります。江戸時代中期の紀行文にも登場するほど古くから知られた湯で、天候や気温によってエメラルドグリーンから鴉色まで表情を変える神秘性も持ち合わせます。湯上がりのしっとり感と体の芯からのぬくもりは、湯治場文化を今に伝える大崎市鳴子ならではの一体験で、宿泊料金にはこの湯の価値がしっかり織り込まれていると感じます。
館内では、アルカリ性の「うなぎ湯」の内湯に加え、さっぱりとした硫黄泉の共同浴場「滝の湯」、そして自然に囲まれた離れの貸切露天風呂「茜の湯」という、性質の異なる3種類の温泉を楽しめます。同じ鳴子温泉街の中で、これだけ性質の違う湯を一度に体験できる宿は限られており、湯めぐりの拠点としての魅力もあります。ロビーや廊下の板張り、行灯の落とし方、床の間の設えなど、細部の意匠にも大崎市鳴子の温泉旅館らしい昔ながらの美意識が生きていて、館そのものが一つの見どころとして機能しています。文化財の建物で泊まる、という体験自体が贅沢なのが、この宿の他にない魅力です。
接客は、旅館の女将さんや仲居さんが担う昔ながらのスタイルで、押しつけがましさのない距離感が心地よいと聞きます。到着から見送りまで、必要以上に声を掛けすぎることなく、それでいて必要な場面ではきちんと現れる、老舗ならではの間合いが保たれているようです。夜の館内は照明が落ち、板廊下を歩く自分の足音が静かに響くほどの静けさに包まれます。大崎市鳴子の温泉街で、素の温泉体験を求める客層に長く選ばれてきたのは、こうした静かな接客と館全体の落ち着いた空気があるからだと感じます。
食事は「食材王国みやぎ」の地元素材にこだわった月替わりの山里料理が供されるとされ、伝統建築の客室とあわせて、鳴子ならではの温泉旅情を存分に味わえる構成です。派手な創作料理より、山と川の恵みをその土地らしく仕立てる方向で、湯と建物のトーンにしっくり馴染む食卓と言えそうです。大崎市鳴子は栗駒山系の恵みが豊富な土地で、山菜・きのこ・地魚など季節ごとの表情が食卓に反映されるようで、春と秋では献立の印象がまったく違ってくるのも楽しみの一つです。食事処の設えも、館の趣に沿った落ち着いたもので、料理と空間が一体となった時間が過ごせます。
温泉街の中心という立地から、下駄でそぞろ歩きに出て、共同浴場や湯めぐり、こけしのショップを巡る楽しみ方もしやすいのがこの宿の強みです。JR鳴子温泉駅からの徒歩アクセスがよく、車がなくても滞在を組み立てやすい点は、大崎市の温泉宿の中でも扱いやすい要素だと感じます。四季ごとに表情を変える鳴子峡や、東鳴子・中山平温泉方面と組み合わせた滞在にもよく合うようで、紅葉の時期は特に人気が集中するようです。冬は雪見の湯、春は新緑、夏は避暑地としての鳴子と、季節ごとに違った表情の旅がここを起点に組み立てられます。
訪問時の注意点として、以前は日帰り入浴も受け付けていたものの、平成23年(2011年)3月31日をもって日帰り入浴は終了しており、現在は宿泊者のみの利用となっているとされます。日帰りでうなぎ湯系の湯を求める場合は、隣接する公衆浴場「滝の湯」の利用が案内されることが多いため、立ち寄り希望の際は事前に宿(0229-83-2565)へ確認するのが確実です。宿泊の予約は繁忙期の紅葉シーズンや年末年始は早めに埋まるようで、余裕を持った計画が推奨されます。所在地は大崎市鳴子温泉湯元84、駐車場も用意されているため車での来訪にも困りません。
湯そのものだけでなく、建物の趣と鳴子温泉街の空気ごと味わうことで完成する一軒として紹介したいと思っています。大崎市鳴子で「泊まって初めて意味が分かる宿」を挙げるなら、まず名前が浮かぶ存在で、旅の目的地としても、鳴子の理解を深める入口としても価値のある宿だと感じます。子どもの頃、鳴子の湯の色が日によって違うと聞かされた記憶が、この宿の湯を前にすると鮮やかによみがえってきます。
近隣には共同浴場の「滝の湯」や「早稲田桟敷湯」、鳴子峡の紅葉、こけしの工房、鳴子ダムなど、大崎市鳴子ならではの見どころが徒歩・車圏内に点在しています。宿を拠点に、朝は近隣の共同浴場で湯めぐりをし、日中は鳴子峡や中山平方面を散策、夜は宿の湯と食事で締める、といった一日の組み立てが自然にできるのが鳴子滞在の面白さです。歴史的にも湯治場として栄えたこの土地の背景を、宿の建物と湯の両方から実感できる貴重な一軒として、大崎市鳴子の顔ぶれの中でも独自の位置を占めているように思います。
店舗情報
- 住所
- 宮城県大崎市鳴子温泉湯元84 地図で見る
- 電話
- 0229-83-2565
- 営業時間
- 宿泊のみ(日帰り入浴は2011年3月末で終了とされる)
- 駐車場
- あり
- 公式サイト
- www.yusaya.co.jp で見る
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