江合川のせせらぎと、路地の奥から立ちのぼる湯気の匂いに包まれて、鳴子御殿湯駅の改札を出るとすぐに東鳴子温泉の空気に切り替わる。鳴子温泉駅からもう一駅奥へ入ったこの一帯は、賑やかな鳴子中心部とは明らかに違う静けさをまとっており、木造の湯宿がぽつりぽつりと軒を並べている。大崎市鳴子温泉字鷲ノ巣18、その一角に「高友旅館」の看板が掲げられている。ほのかに漂う硫黄と油の混じった独特の匂い、路地に響く川音、雪解け水の混じった湿った風、この三つの要素が揃った瞬間に「湯治場に着いた」と体が了解する、そんな第一印象の宿だ。
名物はなんといっても「黒湯」と呼ばれる幸の湯源泉で、石油系の強い油臭を放つことから日本の奇臭温泉のひとつに数えられるとされ、独特の芳香と黒く色づいた濃厚な湯は、全国から温泉好きが足を運ぶ理由になっている。加えて、天然の炭酸を含み肌に泡がまとわりつく「ラムネ風呂」、高温源泉を用いた広めの「プール風呂(プール湯)」、細長い「ひょうたん風呂」などがあり、自家源泉4種を7つの湯壺で楽しめる構成とされている。日帰り入浴料は500円程度と手頃で、大崎市内で本格湯治気分を味わうにはありがたい価格帯だ。
帳場に立つ女将さんや番頭さんは、必要以上に構いすぎることなく、それでも尋ねればぽつぽつと湯の話や建物の話をしてくれる、湯治宿ならではの間合いを保っている。館内は明治から昭和にかけての湯治宿の面影を色濃く残しており、迷路のような廊下、突き当たりの階段、ぎしぎし鳴る木の床、色ガラスの入った扉と、宿そのものが小さな博物館のような趣を帯びている。日帰り客に対しても湯場の使い方や源泉の違いを短く伝えてくれる場面があり、素朴で気取らないもてなしが東鳴子らしい体験を静かに支えている。
温泉好きの常連の間では、日によって黒湯の色や香りの強さが変わることや、時間帯で混浴・女性専用の切り替えがあることなどが話題として交わされる。雪の降る季節は湯気の量が増し、油の香りが雪の匂いと混じって独特の景色をつくるとされ、冬こそ高友旅館らしいという声もよく聞こえてくる。逆に夏は源泉の熱さが体にこたえるため、水風呂代わりに江合川沿いの風を浴びながら休むのが湯治客のリズムになる。長逗留する人ほど湯壺を日替わりで使い分ける知恵を蓄えており、そこに湯治文化の厚みを感じる。
アクセスはJR陸羽東線・鳴子御殿湯駅から徒歩数分、車の場合は東北自動車道・古川ICから国道47号を鳴子方面へ40〜50分ほどが目安だ。宿泊・日帰り利用者向けの駐車場が用意されており、県内外から車で訪れる湯めぐり客にも対応しやすい造りになっている。利用シーンは、鳴子中心部の観光や散策の帰りに一風呂だけ浴びていく日帰り、大崎市民の休日リフレッシュ、そして数日単位で腰を据える本格的な湯治まで幅広く、季節を問わず湯を求める人が集まる。江合川沿いの散策とも組み合わせやすい立地で、湯治後に川沿いをぶらぶら歩く時間が旅の余韻を伸ばしてくれる。
訪問時の注意点として、日帰り入浴の受付はおおむね午前10時から午後3時ごろまでとされ、繁忙期には日帰りを休止する場合があるとされている。設備は現代的な日帰り温泉施設のような至れり尽くせりではなく、脱衣所やアメニティは湯治宿相応の質素なつくり、と割り切って訪れるのが正解だ。石鹸やタオル、飲み物などは事前に用意しておくと安心で、訪問前に一本電話(0229-83-3170)を入れておけば、その日の湯の状態や男女入れ替えの有無を教えてもらえるとされる。湯の匂いは衣類に残りやすいので、着替えを一式持って行くとその後の予定に響きにくい。
周辺との組み合わせという意味では、鳴子御殿湯駅の周りには公衆浴場や別の湯治宿も点在し、湯めぐり手形の文化も残っている。鳴子温泉駅周辺の飯坂通りやこけし店とはまた違う、生活の匂いのする湯治町らしい街並みを歩く時間もセットにしたいところだ。大崎市の玄関口である古川駅から陸羽東線で気軽に来られるため、車を運転できない人にも優しい立地で、鳴子峡の紅葉や潟沼といった観光地との組み合わせもしやすい。中山平温泉や鬼首方面へ足を延ばせば、大崎市西部の湯めぐり旅がさらに広がっていく。
季節性の観点では、雪深い冬こそ湯治宿らしさが際立ち、油と雪の混じった独特の空気が体験できる時期だ。春の江合川沿いの新緑、夏の熱さから逃れる高台の風、秋の鳴子峡の紅葉と組み合わせられる季節と、四季それぞれに違う顔が浮かぶ。年末年始や連休中は宿泊が立て込みやすく、日帰り受付が絞られる時期でもあるので、狙う季節は事前確認が前提になる。湯治客の長逗留と観光客の短時間利用が同居する宿だからこそ、訪問側の心得次第で体験の質が大きく変わる、奥の深さがある一軒だ。
派手な観光温泉との違いを一言で説明するなら、この宿は「暮らしと地続きの湯治文化」を今に伝える現役の場だという点に尽きる。廊下の軋み一つ、湯壺の縁の削れ方一つに、何世代もの湯治客の時間が重なっており、それが観光地化された温泉施設にはない厚みを生んでいる。子どもの頃に親戚に連れられて訪ねた記憶がある大崎市民にとっては、宿の廊下の景色がほぼ変わっていないことに、妙な安堵を覚えるはずだ。そういう時間が今なお東鳴子の川べりに残されていること自体が、大崎市の温泉文化にとって貴重な財産だと私は感じている。
江合川沿いの静かな湯治宿を歩き回り、湯の匂いを衣類に残したまま古川方面へ帰る車の中で、体の芯にじんわりと湯の熱が残っているのを感じる。派手さでも豪華さでもなく、静けさと湯そのものの濃さで勝負する宿を求める人にとって、高友旅館は大崎市の中で真っ先に候補へ挙がる一軒だ。鳴子温泉郷全体の中でも、東鳴子の湯治文化を代表する存在として、これからも静かに湯を守り続けてほしいと思う。
最後に、初めて訪れる人へ小さな助言を添えるなら、湯壺を巡る順序を欲張らず、まずは黒湯にじっくり浸かって匂いと肌当たりを覚えることから始めるのが良い。そのうえで別の源泉に移ると、湯ごとの表情の違いが体でくっきり理解できる。湯上がりに江合川の風を浴びながら鳴子御殿湯駅までのんびり歩き、ホームのベンチで一息つく時間まで含めて、この宿の体験だと考えると、東鳴子温泉の旅が一段と豊かになるはずだ。
店舗情報
- 住所
- 宮城県大崎市鳴子温泉字鷲ノ巣18 地図で見る
- 電話
- 0229-83-3170
- 営業時間
- 日帰り入浴はおおむね10:00〜15:00とされる(繁忙期は休止の場合あり。宿泊は別。変動前提で要確認)
- 定休日
- 不定・要確認(繁忙期は日帰り受付を休止する場合があるとされる)
- 駐車場
- あり(宿泊・日帰り利用者向け駐車場。詳細は要確認)
- 公式サイト
- www.takatomo.co.jp で見る
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