路地の入口で焦げたソースの匂いがふと鼻をかすめる。古川の中心市街地、市役所や古川城跡から歩いてすぐの千手寺町、その一本裏へ入った細道に、時計の針が止まったような佇まいで残る一軒が中央食堂である。かつて奥州街道の宿場町として栄えた古川宿の空気は、外壁の色褪せた看板や磨り減った引き戸から今も静かに漏れ出している。暖簾をくぐると、昭和の頃から使い込まれた椅子とテーブルが並び、蛍光灯のやわらかな光の下で常連客がゆっくり箸を動かしている。大崎市古川の日常が、そのまま封じ込められたような一角だ。派手なリニューアルもなく、当時のままの姿で営業を続けているだけで、貴重な文化財のような存在感を持つ。
看板は焼きそばである。豚肉ともやし、キャベツを鉄板でざっと合わせ、酸味の効いた濃いめのソースで一気に絡めた素朴な一皿で、注文の大半を占めるとされる。青海苔と紅生姜がのった見た目は祭りの屋台を思わせ、麺はごわっと歯ごたえのあるタイプ。大盛りは相当な量で、量が多いと感じたら三分の二ほどに調整してもらえるという柔軟さも、町の食堂ならではの気配りである。みそ中華、もやし中華、ラーメン、冷やし中華、オムライス、カツ丼、餃子と、食堂らしい幅広い品揃えで、漬物や冷奴が付くセットも案内されている。価格は良心的で、ワンコイン近い設定の品もあるようだ。値段の割に満足度が高いという評判が、長く客足を保ってきた理由の一つだろう。
店を切り盛りするのは二人の女性で、子ども連れにも自然に笑顔で声をかけてくれるやわらかい接客が、通う人の心をつかんでいる。忙しい時間帯でも声色に角が立たず、初めて訪れた人でも肩の力が抜けるような雰囲気が漂う。厨房から漂うソースの香りと、常連同士の他愛ない会話が混じり合う空気は、古川の街の日常そのものだ。派手な演出も凝った盛り付けもないが、その飾らなさが半世紀以上通われてきた理由なのだろうと感じる。孫を連れて来た祖父母、部活帰りの高校生、市役所帰りの会社員が同じ卓で並んで食べている光景は、大崎市古川ならではのもので、この店がどれだけ幅広い世代の胃袋を静かに満たしてきたかを物語っている。
店内は四人掛けのテーブルが六卓ほど。一人でふらりと入っても居心地よく、昼どきには近隣で働く人たちや、市役所帰りに一息つく人などで席が埋まる。駐車場は店の向かいに砂利敷きのスペースがあり、車での立ち寄りにも対応する。JR古川駅からも徒歩圏で、七日町商店街や台町方面を歩いた帰り道に組み込みやすい立地だ。大崎市古川の街歩きの締めくくりに、路地裏の食堂で一皿というプランが自然と成立する。近隣には古川城跡や緒絶橋といった歴史的なスポットもあり、街の記憶を辿る散策の合間に立ち寄るのに理想的な位置だ。地元民にとっては、路地の突き当たりに構えた暖簾の場所が完全に体に染みついている一軒でもある。
季節を問わず変わらない味を出し続けるのが老舗の身上だが、冬場は湯気の立つみそ中華、夏は冷やし中華と、その日の気分に合わせて食堂らしいメニュー選びができるのも楽しみのひとつ。常連は焼きそばと中華そばを分け合ったり、餃子を追加したりと、思い思いの組み合わせで楽しんでいる。近年は懐かしさを求めて遠方から訪れる人もいると聞き、鳴子や三本木方面からの帰り道に古川で寄り道する目的地としても選ばれているようだ。雑誌やテレビで取り上げられても浮つかず、日常営業のリズムを守り続けているのが、この店の芯の強さだと感じる。目立つ看板を出さないことすら、この店の矜持の一部に見える。
営業は昼の時間帯が中心で、通し営業ではなく午後の早い時間に閉まる。目安は11時から15時ごろまで。日によって仕込み次第で早じまいすることもあるようで、遠方から向かうときは電話(0229-23-4880)で確認しておくと安心だ。定休日は無休と案内されているが、こちらも変動する場合がある。人気メニューは売り切れになることもあるため、確実に焼きそばを味わいたい人は昼の早い時間帯の来店が無難だろう。土日や連休は開店直後から混み合うことがあり、待ち時間を見込んでおくのがおすすめだ。カード決済等の情報は乏しく、現金を用意しておくのが確実である。財布に千円札を数枚忍ばせて出かけるのが、この店との相性が良い。
街歩きの動線としては、古川駅から緒絶橋・古川城跡を巡り、七日町商店街を抜けて千手寺町へ入るルートが自然だ。中央食堂で腹ごしらえをしてから、近くの菓子屋や古書店を覗きつつ、市役所前の通りへ戻る、そんな半日コースが古川らしい過ごし方となる。鳴子温泉や岩出山方面へ足を延ばす前の腹ごしらえ、あるいは帰路の締めの一皿として組み込んでも収まりがよい。大崎市古川という土地は、こういう昔ながらの食堂を軸に街を眺めると、意外な発見が多いエリアだ。派手な観光地図には載らない路地こそ、街の生々しい記憶を保存しているのだと、この一皿を食べ終える頃に気づくはずである。
この店の値打ちを言葉にするなら、まず「時間の厚み」に尽きる。半世紀を超えて同じ場所で暖簾を出し続けることは、それ自体が文化の保存行為であり、古川の街の一部をこの店が肩代わりして守っている面がある。焼きそばの味そのものは飾りのない家庭的なもので、突飛な工夫はないけれど、その素朴さがむしろ「今日も同じ味だ」という安心につながる。飲食店の入れ替わりが激しい時代に、変わらない味と変わらない店構えを維持することは、想像以上に難しいはずだ。私はこの店の暖簾が路地の突き当たりに変わらずかかっていることに、季節が変わるたびに小さな安堵を覚える。
メニューをどう選ぶかで悩んだら、初回は焼きそば一皿から入るのがわかりやすい。もし胃袋に余裕があれば餃子を一皿追加し、常連ぶりたい日はみそ中華でスープの深さを試すのがいい。二人以上で訪れるなら、焼きそばと中華そばを一皿ずつ頼み、皿を回して両方を味わうのが定番だ。オムライスやカツ丼といった洋食寄りの品目も揃うので、子ども連れでも席に落ち着ける。会計の際に「ごちそうさま」と声をかけると、厨房の奥から柔らかい返事が戻ってくる。そのやり取りの一往復が、この店で食べたという記憶をしっかり残してくれる。
地域における役割で言えば、中央食堂は「古川の日常を維持する装置」の一つだ。商店街の空き店舗が増える中で、こうした食堂が変わらぬ姿で営まれているという事実は、住民に対しても、そして外からの訪問者に対しても、この街がまだ生きていることを静かに伝えている。孫を連れた祖父母が、自分の若い頃と同じ皿を子どもに食べさせる場面に居合わせると、街の記憶が世代を跨いで受け渡されていく瞬間を目撃した気分になる。派手さはないけれど、そういう静かな装置こそが街の芯を支えているのだと、路地を出て市役所前の大通りに戻る途中で、いつも思う。
古川の食堂文化を語るときに外せない一軒だと感じる。ボリュームと安さ、そして肩肘張らない接客がそろった町の食堂は、年々数を減らしている印象があり、こうした店が変わらぬ姿で営まれていること自体がありがたい。派手さはないけれど、また来たくなる。そんな古川の路地裏の一皿を、一度体験してみてほしい。次に千手寺町の路地を歩く機会があったら、焦げたソースの匂いを頼りに、この暖簾を探してみてください。市街の喧騒が急に遠ざかる感覚と一緒に、大崎市古川という街の裏側の顔に触れることができるはずだ。
店舗情報
- 住所
- 宮城県大崎市古川千手寺町1-3-22 地図で見る
- 電話
- 0229-23-4880
- 営業時間
- 11:00〜15:00(変動する場合あり)
- 定休日
- 無休とされる(変動あり)
- 駐車場
- あり(店舗向かいの砂利スペース)
- 参考ページ
- tabelog.com で見る
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