古川十日町の午後、七十七銀行古川十日町支店の隣に、黄色い看板と同じ色のポストが行儀よく並んでいる情景がある。中心商店街の一角ながら、賑わいの喧騒からほんの少しだけ引いた場所にあって、扉を開ける前から穏やかな空気が伝わってくる、そんな一軒がじょん'sキッチンだ。カレーとコーヒーの店と聞くと少し身構えてしまいそうだが、店名の響き通り、犬のジョンと相棒のように寛げる肩肘の張らないカフェで、2022年7月7日のオープン以来、古川の街なかで静かにファンを増やしてきた店だと聞く。十日町という古川の古い町名は、かつての宿場町の面影をどこかに残しており、そこに小さなカフェの灯りが灯る風景は、街の記憶と新しい息吹の同居を静かに物語っている。
看板メニューはスープカレー。加えてポークカレー、ビーフカレー、時期によっては野菜を主役にした一皿が並び、ご飯は地元大崎のブランド米「ささ結」が用意されているそうだ。スパイスを立てた後は長く煮込まず香りを大切にする一方、玉ねぎはじっくり炒めるという手間の掛け方が、口に入れた瞬間の香りとコクの両立を生んでいる。食後にはハンドドリップのコーヒーやポットで供される紅茶、自家製の牛乳プリンやケーキも用意されており、カレーの後にゆっくり甘いものと一杯を楽しむ流れが心地よい。カレー専門店というより、「カレーもコーヒーも大切にしている店」という言い方の方が実像に近い。
店を営むのはご夫婦。接客を担う奥さまの明るい人柄と、厨房で手を動かすご主人の静かなこだわりが、店の空気をつくっている。ご主人はもともと障害者就労支援の現場で働いていた経験があり、「どんな人でも居心地よく過ごせる場所を作りたかった」という思いから独立されたと聞く。宮城県内のカレー店を食べ歩いて研究を重ねたとも伝わっており、店に流れる音楽や器の選び方にも、ご主人の好きなものが素直に出ている。忙しい時間帯でも急かすような気配がなく、一人で来ている客にもさりげなく目を配ってくれるあたりに、前職の経験が滲んで見える瞬間がある。
立地は古川の中心商店街で、駅からも徒歩圏、駐車場は店から徒歩数十秒の場所に数台分が確保されているそうだ。買い物のついで、役所帰り、あるいは仕事の合間にひと息つく場としても使いやすい距離感で、日中の街歩き動線に自然に組み込める。カウンター席が中心で、席の間隔もゆったり取られており、一人で読書をしたり、パソコンを開いて少し作業をしたりする姿も見かける。私が好きなのは、店内の音のバランスだ。BGMは主張しすぎず、スプーンと皿の触れ合う音や、豆を挽く音が主役に躍り出ることもなく、ちょうどよい静けさが保たれている。
季節ごとにメニューが小さく動くようで、寒い時期はスパイスの温もりが染みるスープカレーが恋しくなり、暖かい季節にはさっぱりしたラッシーや冷たいスイーツが目当てになる。地元産の野菜が入る時期には、素材の顔がそのまま見えるような一皿になるのも楽しみのひとつだ。常連には近所の勤め人、鳴子や岩出山方面から用事のついでに寄る人、女性客や一人利用が比較的多いようで、長居やパソコン持ち込みもゆるやかに歓迎されている。SNSでは季節ごとの限定メニューやイベントの告知も出ているようで、常連はその情報を丁寧に追いかけている。
営業時間は資料により幅があり、11時30分から20時、あるいは12時から20時、日曜は短縮という記載も見かける。定休日についても火曜・水曜との案内と、月曜・火曜との案内があり、時期によって動く可能性があるので、初めての場合は電話050-5484-7907やSNSで直前に確認しておくのが確実だ。予約なしでもふらりと入れる日が多いようだが、天気の良い週末は混み合う時間帯もあると聞く。ランチタイム後に中休みが入る日もあるようで、遅めの昼食を狙う場合は事前確認が空振り防止に役立つ。
周辺の楽しみ方として、十日町の裏道を歩くと、古書店や個人商店、小さな飲食店が点在していて、店から数分歩けば別の店の看板に出会うことができる。カレーで温まったあと、コーヒーで一区切りつけて、外に出るとまた大崎市古川の街並みが続いている。中心街の再開発が進むなかでも、こうした個人経営のカフェが街の一角に灯りをともしているという事実そのものが、街の暮らしの豊かさを担保している気がしてならない。
店主のご夫婦の距離感は、この店の魅力を語るうえで欠かせない要素だ。客の顔を覚えていながら、それを押し付けがましく表に出さない。会話が生まれる日もあれば、目礼だけで完結する日もあって、その日その日の客の気分に応じて空気の温度を細かく調整してくれる。飲食店の接客の理想形の一つを、この店は静かに実践しているように感じる。
歴史的な文脈で見ると、古川十日町は江戸期の宿場町の記憶を今に残す通りで、その表通りから一本入った路地に位置するじょん'sキッチンは、街の骨格を継ぎながらも新しい業態を差し込む役割を担っている。古い町名の下に新しい灯りが加わるとき、街の物語には一段の厚みが生まれる。この店はまだオープンから日が浅いが、こうして続いていくことが、そのまま街の記憶の続きを書くことに繋がっていくのだろう。
利用シーンとしてすすめたいのは、雨の日の遅い昼、あるいは平日の午後の一人時間だ。ゆっくりスパイスを味わって、そのままコーヒーとデザートで長居してみる。急かされない時間の中で、次の予定までのバッファを設計するという使い方が、この店の空気にとても合う。仕事の合間に頭を切り替えるための場所として、じょん'sキッチンはとても機能的な選択肢だと感じる。
注文の細かな話をすると、カレーの辛さや量の相談にも柔軟に応じてくれるようで、初訪問なら看板のスープカレーを標準の辛さで頼み、食後にハンドドリップの珈琲を一杯、というのが素直な楽しみ方になる。プリンやケーキは仕込みの量が限られる日もあるようなので、狙って行くなら早めの時間帯を選びたい。
街のなかに残る個人店の灯りは、その街の暮らしの豊かさを測る一つの指標だと思う。じょん'sキッチンで一皿と一杯を楽しんだあと、扉を押して外に出た瞬間の、少しだけ整った気持ちの手触りこそが、この店が街に置いている本当の価値だと感じる。大崎市古川の中心部に、こうした灯りが長く続いてくれることを、一人の常連予備軍として静かに願っている。
店舗情報
- 住所
- 宮城県大崎市古川十日町7-7 地図で見る
- 電話
- 050-5484-7907
- 営業時間
- 昼から夜にかけての営業とされる(資料により11:30〜20:00/12:00〜20:00、日曜は短縮など記載に幅があります)。営業時間は変動する場合があります。
- 定休日
- 火曜・水曜とされるが、資料により月曜・火曜との記載もあり、変動する場合があります。
- 駐車場
- あり(店近くに数台分)
- 参考ページ
- tabelog.com で見る
- SNS
- X(旧Twitter)
※営業時間・定休日・メニューなどは変わることがあります。最新情報とご予約は各店の公式のご案内でご確認ください。 記載の誤り・修正・削除のご依頼は 運営者情報 からどうぞ。
