田尻の田園を貫く農道を進むと、視界いっぱいに広がる緑の海のなかに、白を基調とした小ぶりな建物がぽつりと姿を見せる。HIPCROPS(ヒップクロップス)は大崎市田尻沼部字塩加良に構える、農家が営む個性派のパン屋だ。地図アプリを二度見してしまうような立地で、周囲を田んぼと畑に囲まれた開けた土地に佇む姿は、大崎市の他エリアからでは想像しづらい静けさを纏っている。初訪の来店客からは「本当にこの道で合っているのか」という声が漏れ聞こえてくることもあるほど、田尻沼部の風景に深く溶け込んだ場所にある。
店は2021年11月にオープンし、会社員を辞めて農業の道へ進んだ店主が「農業を楽しく美味しく」を合言葉に始めた農家のパン屋さんとされる。看板メニュー「ベジベジパン」を目当てに、田尻の地元客はもちろん、古川方面や仙台方面から車を走らせて訪れる人も少なくない。田尻の田園景観そのものが店の外観の一部になっているような、大崎市らしい大らかな第一印象がここにはある。
看板の「ベジベジパン」は、特許を取得した製法・機械でつくられるカップ状の生地が土台になっている。注文が入ってから焼き上げ、そのなかに店主の畑で採れた野菜や大崎市田尻近隣の食材を盛り付けて提供する仕組みで、他のパン屋では見かけない独特のスタイルだ。塩だれ豚バラ炒め、カレー、チリミート、照り焼きバーガーといった食事系から、いちじくの赤ワインコンポート、かぼちゃプリン、さつまいものヨーグルトソースがけといった甘い系まで、幅広いラインアップが並ぶ。
価格帯は一般的なパン屋よりやや高めだが、具の量と内容を見ると軽食一食分の満足感がある水準で、田尻の畑の野菜を丸ごと乗せた一杯を食べているような手応えがあると評される。カップ状の生地は器としての役割も果たすため、フォークで具を掬いながら食べるという新鮮な食体験が生まれ、パンでありながらどこかスープやサラダを思わせる不思議な立ち位置に置かれる。
店主自身が畑に立ち、パンも焼くというスタイルで、店頭で会話を交わすと農家としての手触りが自然に伝わってくる。「今日はこの野菜がいい出来だから、この具材を追加したよ」といった一言が挟まる日もあり、その日の畑の状況がそのままメニューに反映される柔軟さが、田尻沼部という土地柄と絶妙に合っている。無理に多店舗展開せず、目の届く範囲で作り手の顔が見える形を守っているのも好印象だ。
店舗の隣には広めの駐車スペースがあり、車での来店に困らない。田尻駅からは徒歩でも通えなくはないが、道は田園の中を抜けていくため、初めての人は地図アプリを併用したい。古川市街や鹿島台からも車で20〜30分程度で、大崎市の南東部を巡るドライブの寄り道先として組み立てやすい距離感だ。仙台方面から東北自動車道で古川ICを経由するルートでも、寄り道として十分成立する。
パン購入は基本テイクアウトで、田尻の道の駅や近隣の温泉と組み合わせて回るのも楽しい。田尻沼部という地名を体感するには好適な立地で、周辺の田園風景そのものが店の魅力を増幅する演出になっている。初夏の青田、真夏の入道雲、秋の黄金色、冬の雪景色と、四季ごとに違う額縁の中で同じ店を眺められるのが田尻の贅沢だ。
季節ごとに旬の野菜が入れ替わり、春はアスパラや新玉ねぎ、夏はズッキーニやトマト、秋はきのこやさつまいも、冬は根菜や白菜と、田尻の畑の恵みがそのままパンに乗る。SNSでは焼きあがりや新作の告知が随時発信されており、常連はそれを見て予定を合わせて来店するのが定番のようだ。田尻の田園風景と、農家発想のパンという組み合わせは、大崎市内でも他に類を見ない個性を放っている。
定番のベジベジパンに加えて、季節限定の甘い系パンを一つ足すのが常連の楽しみ方らしく、来店のたびに違った顔ぶれと出会える棚が魅力になっている。田尻沼部の畑が生む野菜の変化を、パンという形で追いかけられるのは、大崎市の食を巡る楽しみとして稀有な体験だ。地元の農家仲間との情報交換から生まれるという創作の裏側にも、この土地ならではの厚みがある。
営業時間は11:00〜18:00、定休日は火曜とされる。売り切れ次第終了となることもあるため、遠方から向かう場合は事前にFacebookやInstagramで当日の営業状況を確認するのが確実だ。住所は大崎市田尻沼部字塩加良57-6、電話は0229-29-9512。土日は混み合うことがあるため、時間に余裕を持って訪れたい。冬季は積雪で田尻周辺の道路状況が変わることもあるので、道路情報も一緒に確認しておくと安心だ。
人気の惣菜系ベジベジパンは早い時間に売り切れることもあるため、午後遅めに向かう場合は選択肢が少なくなる可能性を織り込んでおきたい。田尻を訪れる際は、店の前後に道の駅たじり、加護坊山の展望、鹿島台方面の田園ドライブを組み合わせると半日コースが自然に完成する。古川市街から国道4号を南下し、田尻の農道を抜けてHIPCROPSに寄り、そのまま鹿島台方面へ抜けて品井沼周辺を散策する動線は、大崎市南部の里山と田園を一度に体感できる贅沢な組み合わせだ。
松山方面の酒蔵見学と組み合わせるのも一興で、田尻・松山・鹿島台という旧町エリアの空気を、パン一つを起点に横断できるのはこの店ならではの楽しみ方だ。地元客の間では、農作業の合間の軽い遠出として利用されることも多いようで、農家同士が「今日は何が乗っているの」と気軽に情報交換する場にもなっている。都会のトレンドとは違う、大崎の土から生まれた食べ物という感触が確かにあり、田尻の田園を旅の目的地に格上げしてくれる存在として、地域の食シーンに新しい色を加え続けている。
店舗情報
- 住所
- 宮城県大崎市田尻沼部字塩加良57-6 地図で見る
- 電話
- 0229-29-9512
- 営業時間
- 11:00〜18:00(とされる)
- 定休日
- 火曜(とされる)
- 駐車場
- あり(店舗となりに駐車スペース)
- 参考ページ
- tabelog.com で見る
- SNS
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