夕暮れどきに国道457号を古川市街から南へ走っていると、沢田沼ノ上のあたりで焼肉らしい香ばしい匂いが車内にまで届いてくる瞬間がある。窓を開けているわけでもないのに、脂と醤ダレとにんにくが交ざったあの独特の匂いが、確かに走行中の車まで届く。その源のひとつが、みつば屋だ。店構えは決して洒落たものではなく、看板の文字も控えめだが、暖簾の奥から漏れる灯りとホルモンを焼く音は、通り過ぎようとする車のスピードを無意識に緩めさせる力を持っている。大崎市古川の郊外に息づく食堂と焼肉屋の中間のような一軒である。
看板メニューはもちろん焼肉とホルモンだが、暖簾をくぐると内側の壁一面に貼られた品書きに驚かされる。カルビやハラミ、上ミノ、シマチョウといった焼肉屋らしい部位から、ラーメン、とんかつ、から揚げ定食、カツ丼、親子丼まで、およそ大衆食堂で見かける料理はほぼ揃う。看板料理はホルモンとされる一方、ランチのBランチや七百円台のラーメンを目当てに来る常連も多く、価格と量のバランスが良いと案内される。財布に優しい設定は、大崎市古川の勤め人や作業員の胃袋を長く支えてきた理由のひとつだろう。
カウンター越しに聞こえてくる注文の声にも、この店ならではの独特のリズムがある。「いつもの、Bで」「ラーメンとホルモン一皿、ライス大」「今日は何がお勧めですか」といったやり取りが交互に混ざり、それに対する店主の返しが短くて素っ気なく、しかし妙に温かい。初めての客に対しても構えず、メニュー表のどこを見ればいいかを口頭で示してくれるので、迷ったまま置き去りにされることがない。下町の焼肉屋らしい距離感が、そのまま接客の柔らかさに置き換わっているのが面白い。
立地は古川駅から南西へ少し離れた沢田沼ノ上、国道457号沿いで、車での来店を前提とした郊外型の店だ。駐車場は店前と周辺に確保されており、軽トラックや作業車が並ぶ時間帯も多い。近隣は住宅と農地、事業所が入り混じる大崎市古川らしい景色で、国道は加美・鳴子方面へ抜ける生活の大動脈でもある。通勤路の途中で夕食を仕入れる客、出張帰りに一杯だけ引っかけていく客、家族で外食に出た夜の一皿を求める客と、時間帯によって座る顔ぶれがくるりと入れ替わる。
昼のピークは正午前後で、Bランチや日替わり定食を目当てに近隣事業所の従業員が塊で押し寄せる。作業服のまま入ってきて、注文と同時にお茶を一気に飲み、料理が届く頃には汗が引いている、そんなシーンが繰り返される。夜になると、店内は焼肉屋らしい脂の煙とホルモンの香ばしさが濃くなり、ビール瓶が並ぶテーブルが増える。Bランチだけで満足して帰る昼と、ホルモンを二皿三皿と重ねてじっくり過ごす夜とで、同じ店とは思えないほど空気が変わるのがこの店の面白さだ。
訪問時の実務的な話としては、営業時間や定休日に多少の揺れがあるとされるので、遠方から車を走らせるつもりなら〇二二九‐二八‐四五〇〇へ一報を入れてから向かうのが賢い。焼肉主体で夜に狙う場合や、団体で使いたい場合は予約を入れておくと待たされずに済む。昼のピークは十二時前後に集中するため、時間を少しずらせば静かな席でゆっくり味わえる。ホルモンは鮮度が命なので、店主に「今日のおすすめの部位」を尋ねてしまうのが結局は近道だ。
店の周辺の風景も、この店の性格をよく物語っている。国道457号は、鳴子温泉方面からの帰り道であり、加美町方面への通り道であり、通勤・買い物・レジャーの動線が交錯する道でもある。そんな動きの多い道の脇に、焼肉もホルモンも定食もラーメンもまとめて受け止めてくれる店が構えているというのは、地方の暮らしの中では想像以上に貴重な存在だ。鳴子帰りに小腹を満たしたい家族、加美への出張前に腹ごしらえをしたい会社員、そのどちらもここへ来れば大きく外さない。
少しだけ個人的な感想を挟むと、大崎市の焼肉というと大型チェーンや駅前の店ばかりが検索上位に出てきがちだが、こうした食堂寄りの焼肉屋こそが日々の食卓の延長線として長く続いてきた印象がある。真新しさや派手さで勝負している店ではなく、腹を空かせて入り、腹一杯になって出てくることを許してくれる懐の深さで生き残ってきた店だ。地元で長く続く店には続くだけの理由がある、という言い回しが、この店にはよく似合う。
メニューの中でも密かに評価が高いのが、ホルモンを使った定食類だと聞く。焼肉として単品で頼むのとは別に、ご飯と味噌汁に一皿の焼き加減を合わせてくれる定食スタイルは、酒を飲まない客や昼のがっつり派に強く支持されているとされる。味噌ダレの香ばしさと白飯の相性を、酒抜きで純粋に楽しめる構成で、大崎市古川の勤め人の午後の元気を静かに支えてきた。品書きに載っていないような「ホルモン丼」的な小回りの利いた注文にも応じてくれるという話も聞こえてくる。
注意すべきは、焼肉屋らしい煙と匂いが服につきやすい点で、翌日に大事な予定を控えている日に立ち寄るなら、上着だけ車に置いておくくらいの用心があると気持ちが軽い。逆に言えば、その匂いを気にせず着ていける服装で行けるかどうかが、この店を存分に楽しめるかの分水嶺でもある。仕事帰りの作業着姿、休日の普段着、そういう気楽な装いで訪れるのが、この店にはいちばん似合っている。
他店との違いという観点で見ると、みつば屋の魅力は「焼肉屋の看板を掲げながら、大衆食堂の懐を持っている」という一点に尽きる。焼肉専門店の緊張感は薄く、定食屋の気軽さがベースにあり、その上に本格的なホルモンや網焼きが乗っている構成は、大崎市古川では意外なほど貴重だ。焼肉を食べたい気分の客と、単に定食を食べたい気分の客が同じテーブルを囲めることは、外食のハードルを下げる効果が案外大きい。家族で気分がバラバラのときに、この店は選択肢として現実的に生き残る。
利用シーンとしては、平日昼のがっつり定食、金曜夜の焼肉とビール、休日のホルモン鍋を家族で囲む夕食、といった三つの顔を持たせることができる。作業帰りに一人で流し込む一杯のラーメン、部活帰りの高校生が親と来る土曜昼、常連同士の予告なしの合流、いずれの場面にも自然にはまる。派手なイベント需要ではなく、日常の食卓の延長として使える焼肉屋という位置づけが、大崎市古川の郊外にとって長い間必要とされてきた役割そのものだ。
地域での役割という切り口で締めるなら、みつば屋は「大崎市古川の食堂文化と焼肉文化を橋渡しする一軒」と言ってよい。派手さや流行を追わないぶん、時代の流れに左右されず、腹を空かせた地元客に淡々と応え続けている。この種の店が古川の郊外に何軒残っているかは、この地域の暮らしの豊かさを測る隠れた指標なのかもしれない。夜、店の前を通るたびに漏れてくる灯りと匂いは、これからも国道457号を走る誰かの空腹を、確かにくすぐり続けるはずだ。
店舗情報
- 住所
- 宮城県大崎市古川沢田沼ノ上5-3 地図で見る
- 電話
- 0229-28-4500
- 駐車場
- あり(国道457号沿い・車での来店が主)
- 参考ページ
- tabelog.com で見る
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